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2021-09-23

中国恒大・債務危機の着地点

09-23 民間企業の肥大化は望まず
背景には優良小学入学にさえ
不動産証明要求などの社会問題

中国恒大集団の債務危機が連鎖拡大するのでは
ないかという不安が世界に広がっている。
習近平が描いているであろう着地点を考察する
とともに、中間層がなぜ不動産獲得にここまで
狂奔するのか、社会背景を読み解く。

◆中間層が不動産購入に狂奔する理由「その1」
:入学時に要求される不動産証明書
江沢民時代からリーマンショック直後あたりまでは
党幹部などを含む富裕層が投機的に不動産を購入する
傾向が強く、不動産価格の高騰を煽ってきた。
中間層が増えるにしたがってディベロッパーは
「今買わないと来年にはもうこの値段では買えませんよ」
と消費者心理を煽り、不動産購入層は中間層へとシフト
していった。

その最大の原因が優良な公立小学校に入学するときさえ
「不動産所持証明書」が要求されるという事実を知って
いる人は少ないだろう。

2014年まで中国では義務教育である小学校も中学校
(初等中学=初中)も入学試験があり、優良な小学校に
入るためには学校側に賄賂を渡す習慣が常識化していた。
学校側は心得たもので、多少入試成績が悪くても賄賂が
多ければ手心を加え、公立だというのに肥え太っていった。

金を集めるためには良い教師がいなければならない。
教師の一本釣りも流行り、一流の小学校に入れない者は
「一流の塾」に法外な授業料を払って、14億人が「高学歴」
へと突進していったのである。

試験があるために賄賂が動くという「腐敗構造」が義務教育
である公立小学校にさえ存在することに対して、反腐敗運動
に出ていた習近平は「義務教育入学時の試験を撤廃せよ」
という通達を2014年に発布し、住んでいる場所によって入学
する小学校や中学を決める「学区域制」にした。

ところが、上に政策あれば下に対策あり。
ならば、入試は免除するが、その代わりに入学審査は
「不動産保有の有無によってランク付けしていく」という
信じがたい手に出始めたのだ。

たとえば2021年における<上海市嘉定区義務教育入学生募集
実施意見>をご覧いただければわかるように、2014年9月1日
から2015年8月31日までに生まれた満6歳の学齢期児童から
「不動産証明」を提出した者を優先的に入学させるという
ランク付けによって選抜することになったのである。

これは各地区によって異なるが、中国は都市を第一線都市
(大都会)、第二線都市、第三線都市・・・とランク付け
しており、第一線あるいは第二線くらいまでは、こういった
状況にあると考えていいだろう。

8月11日のコラム<中国金メダル38でもなお「発展途上国」
が鮮明に>で書いたように、中国の一般家庭の「高学歴への
渇望」は尋常ではない。
恒大問題を考察するときには、こういった中国の根本的な
社会背景を直視しなければ真相解明には至らない。

◆中間層が不動産購入に狂奔する理由「その2」
:一人っ子政策がもたらした「剰男」
 長いこと実施してきた「一人っ子政策」によって、男尊
女卑の強い農村では、お腹の子が女の子だと分かると早い
時期に堕胎し、男の子を生んだ母親(使いたくない言葉だが
「農家の嫁」)を高く評価する傾向にあった。
そのようなことが累積して、2020年11月1日に始まった第7回
国勢調査の結果では、男性の方が女性より「3490万人」多い
というデータが出ている。
そのうちの結婚適齢期の男性が結婚相手を見つけることが
できないという現状にある。

中国語では「結婚できない男性」を「売れ残った男性」と
みなして「剰男(センナン)」と呼ぶことが多い。
本人に結婚願望がなければ、この範疇には入らないだろうが
「独身男性」は肩身が狭いという傾向にある。

同様に「結婚できない女性」を「売れ残った女性」とみなし
て「剰女(センニュイ)」と称したりしたが、今は「剰女」
は少なくなってきた。そもそも女性にも結婚願望が強くない
現象があるので微妙ではあるが、結婚願望のある男性や
独身男性を抱える父母は気が気ではない。

結婚してみようかという女性の側は、「結婚したければ
『家あり、車あり、高学歴』という条件を揃えなさいよ!」
と強気だ。「剰男」の両親あるいは「剰男」自身が、結婚
のために、なけなしのお金を?き集めてマンションを購入
するという状況は、中国の庶民の間でよく見られる日常風景
なのである。

◆習近平が恐れるのは中間層の社会動乱
:「6個の財布」を使い果たして
中国には「6個の財布」という言葉がある。一人っ子の両親
と、その両親のそれぞれの両親の6人を合わせた「財布」を
全て合わせるという意味で、「一つのマンションを購入する」
ときには、この「6個の財布」を必要とする。
車の価格はマンションとは比較にならないほど安いので、世代
を超えた、なけなしの財産である「6個の財布」はほとんどの
場合、「不動産購入」に充てられている。

習近平が最も恐れるのは、この「6個の財布」を?き集めて不動産
を購入した中間層の反乱だ。これを抑えなければ社会不安を
もたらして、非常にまずい。

習近平は2017年、2018年と立て続けに「家は住むためのものだ。
投機のための不動産購入をやってはならない」という通知を出し
続けているが、しかし富裕層は相も変わらず投資のための購入
をしている。

投資は必ずリスクを伴うものなので、たとえ恒大集団が倒産して
大損をしたところで、富裕層自身が損をするだけで習近平に
とっては大きな問題ではない。そもそも富裕層は「自分が儲け
そこなった」として動乱を起こしたりはしない。
彼らは「叩けばホコリの出る身」。騒がずに他の投資対象を
探せば済む話だ。
習近平が動くとすれば、人数的には最も多いであろう中間層
の購入者への配慮からだろう。

◆習近平は恒大を救済するだろうか
すでに多くのニュースで語られているので繰り返したくはない
が、基本情報だけ書くと、中国不動産大手の中国恒大集団の
負債総額は今年6月末時点で、日本円で約33兆円相当に上る。
その負債を巡り、資金繰りへの懸念が高まり、倒産するのでは
ないかという不安が全世界を覆っている。

そこで注視されているのが「習近平は果たして恒大を救済する
か否か」という一点だ。
この点に関して言うならば「救済しない」と言っていいだろう。

 なぜなら昨年8月20日、中央行政省庁の一つである
「住宅城郷建設部」や中国人民銀行などの関係部局が、恒大を含む
大手不動産企業12社ほどを呼びつけて、彼らを前にした座談会を
開いた。そのときにディベロッパーたちに「お灸をすえるように」
以下の「三道紅線(3本のレッドライン)」を提示している。

1.不動産企業の前受け金を除いた後の総資産に対する負債比率
は70%を超えてはならない。

2.不動産企業の自己資本に対する純負債率は100%を超えては
ならない。

3.不動産企業の現金対短期負債比は「1」未満でなければ
ならない(=短期負債より多い現金を持っていなければならない)。

この「3本のレッドライン」を守れない不動産企業は、「その違反
の度合いに応じて銀行からの融資規模などを制限するので、そう
心得よ」と厳しく言い渡した。

なぜ「三道紅線」指針を出したかというと、上述のような原因で
不動産価格の高騰を招き、それによってディベロッパーも不動産
価格高騰に期待して過剰融資し自転車操業をするものだから
不動産バブルがどんどん膨れ上がってしまい、いずれバブルが崩壊
するかもしれないという危機感を政府が抱いたからだ。

 これはまだ正式な政府通達という形で発布はされていないが
しかし今後の中国政府すなわち習近平政権の指針を示すものとして
強いインパクトを与えたと思われる。
特に恒大は、この3つのすべてに違反している。
きっと震え上がったにちがいない。

もし習近平が恒大を救済などしたら、単に指針に反するだけでは
なく、不動産価格の高騰を加速させバブルがますます膨れ
上がっていく。
したがって習近平としては「救済しない」ということができる。

◆恒大を倒産させるのか
ならば、恒大が倒産するのを黙って見ているのかと言ったら
答えは「否」だろう。

上述の社会動乱を抑えなければならないので「いきなりは倒産
させない」と見るべきだ。この「いきなり」か否か、が重要だ。

「救済はしないが、倒産はさせない」というのは、矛盾している
ように見えるが、中国が「特色ある社会主義国家」であることを
考えると、そうでもない。

恒大の最も大きな資産は土地備蓄だ。
中国では土地は国家のものなので、ディベロッパーは地方人民政府
が保有している土地の「使用権」を購入して、そこにマンション
などを建てている。もし倒産してしまったら、清算するときにこれら
の土地備蓄が大量に市場に出回るので土地の価値が下がり、地方政府
は大きな損失を被る。そのようなことを中央政府が認めるはずがない。
だから「倒産はさせない」。

また倒産してしまったら、高い頭金を支払い、ローンを組み、すでに
利子も含めて大きな支出を負ってきたマンション購入者が必ず動乱を
起こす。

習近平は不動産バブルを防ぐために「不動産を購入できないようにする
目的」で、不動産購入時の金利を「6%~6.5%」と非常に高く設定し
頭金も不動産価格の「30~50%」を支払うことと設定している。
そこまでしてでも不動産を購入させまいとしてきたために、購入者は
すさまじい負担を強いられているのだ。
もし倒産したら、「家」として手に入れることができなくなるので
中間層の怒りは爆発するだろう。
だから「倒産はさせない」ということが言える。

◆どのようにして「倒産させないように」するのか
では、どのようにして倒産しないようにすることができるのか。

その方法はいくつかある。
まず、国有の不動産企業に深センや上海など第一線都市の資産価値の
高い土地使用権を購入させる。
恒大はこの資金を債務返済の一部に充てる。

やや「長期」にわたってこれらを繰り返せば、恒大の資産も減って
いくだろうが負債も減っていくはずだ。

こうして「かなり長い期間」をかけて恒大の負債を減らさせていき
しかし資産も減らしながらも建物だけは完成させて、購入者の手に
渡るようにする。
このようにして、「恒大を救済せずに、倒産させず、購入者が動乱
を起こさない」方向に「長~い」時間をかけて持って行く。
これが、習近平が描いている着地点であろうと推測される。

なお、「共同富裕」との関係においては別途論じるかもしれないが
基本は『習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』に書いた精神に
基づいて習近平は動いている。この背骨を理解しさえすれば、かなり
正確に習近平の政策を分析することができるようになると信じている。

    
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